2009/12/20

哀しいとき、寂しいときに浮かぶ三好達治の詩を送ります。

           水谷三佐子

三好達治『測量船』より

【解説 水谷三佐子】

  美保さんが亡くなった19日、名古屋は冷たい大気の中。屋根には初雪が積もり、美

しかい朝でした。パソコンを開いて彼女の死を知り、みなさんの哀しみを知り、同じ

ような思いが胸一杯に広がりました。

 三好達治の詩が口をついたのです。

 私たちを夢へ誘う雪、深い眠りへ誘う雪は、太郎を眠らせ、次郎を眠らせ、美保さ

んを天上へ、迎えるやさしい雪だった。 

 彼女の魂は夢のあわいのような乳母車に乗って今、天上へと向かっている。

 紫陽花色のもの、私にとって、それはその時その時で異なるのです。。

 美保さんに降りしきる「淡く哀しきもの」「紫陽花色のもの」は、短いけれど、凛

とした生を美しく全うした彼女を包む大気のように思います。 

私は、専門家的な解釈は全く出来ません。声を出して読んで下さい。天上へ旅立つ彼

女の為に。そしてご自身や私たちのために。詩も和歌も俳句も、声に出して読み上げ

る。意味は解らなくとも、魂の癒しになると私は信じています。

 美保さんは「美しく生ききること」を私たちへの贈物にして旅立ったのですね。

    水谷三佐子

 

【解説 素浪人】

 雪の日に美保さんが天に召され、名古屋の同期生水谷さんが降り積む雪を見て、

三好達治の「雪」の詩をMLに流された。

 

 水谷さんのメールに感じるに値することは全てカバーされているので、私が技術的な

ことを述べるのは、美保さんの死を悼み、その生前を偲ぶ気持ちに水を差すようで気が

引けるのですが、他ならぬ安らかな眠りのイメージを喚起する「雪」の詩なので、私なりの

解釈を。

 

 雪   三好 達治

 

 太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。

 次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。

 

 文学的文章の中でも、特に詩は、言葉のイメージを喚起する力にその多くを負っています。 

 雪は、静かに音も立てず、次から次に降って来て、様々な異なる存在の上に降り積もって、

いずれをも等しく真っ白に変えてしまう。 

 太郎や次郎は、それぞれ異なった具体的な子供の名前であって、この具体的な

名前を出すことによって、子供という概念ではなく、具体的な個別の異なった子供の

イメージが喚起される。 

 雪との関係でいえば、太郎と次郎という具体的な名前を出すことによって、雪が

その上に降り積もる具体的な個別な、異なるものが、概念・説明ではなく、イメージとして

喚起される。 

 また、人によって若干の違いはあるでしょうが、「太郎」という名前が喚起するのは、元気で

どちらかというとまるまると太った男の子。そして、次郎は、その弟。 

 平穏、静けさとの対比という観点から、ここはやはり、花子よりも、太郎のほうがよい。

即ち、元気な、ひょっとしたらやんちゃ坊主の太郎や次郎も、静かに降り積もる雪の下では、

おとなしく安らかに眠っている。 

 雪はしんしんと音もなく降って来るので、太郎は安らかに眠っていることができる。

次郎もそう。そして、この兄弟が安らかに眠っているというイメージにより、雪景色の

世界の静けさ、平穏さが読み手の中にも生じる。 

 太郎と、次郎という名前を違えるのみで、同じパターンの句を二行つづけることにより、

いずこにも、あとからあとから降って来る雪のイメージが、喚起され、静寂と平安に

満ちた雪景色の世界が眼前に広がる。 

      素浪人